SCIENCE BEHIND THE SKILLs

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視線分析で学ぶ重機操作の極意①:オペレーターは合図者を見ていない?






掘削作業において、埋設管が存在する現場では、管に損傷を与えないよう、より慎重な作業が求められます。このような場面で重要な役割を果たすのが「合図者」です。合図者は、重機オペレーターの死角を補いながら、安全な掘削を支援する存在です。



オペレーターは合図者を見ていないのか?

それにもかかわらず視線分析を通じて、オペレーターは合図者を見ていないという結果が得られました。「オペレーターが合図者を見ていない」と聞くと、安全意識に欠けているように感じるかもしれません。しかし実際には、オペレーターは「掘削位置」「埋設管」「バケットやアームの動き」に集中しており、合図者のことは「注視していない」ことがわかりました。


合図者を見ればもっと安全?その理由を考える


現場でのヒアリングを重ねると興味深い傾向が見えてきます。オペレーターに合図者を見ていないかと尋ねると、見ていると答えます。より詳しく聞くと、見てはいるが、基本的に注視はせず、対象物が一部でも視界に入っている限り、合図者よりも自分の視覚を優先しているということがわかりました。 その理由は、合図者による指示だけでは的確に支障物の位置とそれを避けて掘削するための重機の動きを表現することが出来ないという事実があります。重機を操るためには、ブーム・アーム・バケットの3つを正しく動かす必要があります。これらの操作を合図者が正確に伝えることは出来ないため、完全にバケットが見えない状況を除き、合図者を注視することはないのです。なお今回使用した視線計測器では一定期間被験者が注視した場合にその場所を「見ている」と判断しています。


視線計測器とは?

視線計測器は頭部に装着した眼球により被験者の瞳孔動きを検出し、その注視箇所を視野カメラにより撮影された映像上にアイマークとして表示することができる装置です。




まとめ


ハンガリー出身の学者マイケル・ポランニーは知の探究を通じて、「私たちは言葉に出来るより多くのことを知ることができる。」という結論を出しました。オペレーターが合図者を見ていないからといって、それが必ずしも安全軽視に繋がるわけではありません。むしろ、五感を駆使して、安全な掘削を行っているのです。だからこそ、合図者は身振り手振りを交えた分かりやすい指示が求められ、お互いの役割を理解し合い、見えなくても連携できる関係づくりが、安全な作業には欠かせません。